地球の裏側で改元を祝う-2-

日本時間でのGW3日目。ようやく今回遠征の目当てへ向けてフィールドへ飛び出していく。

今回狙う鉄路はアントファガスタ-ボリビア鉄道。今となっては純然たる内陸国となったボリビアがかつて海に面していた時代に建設を開始した路線で、内陸各地に点在する鉱山資源をアントファガスタの港から海路へ持ち出すことを目的とされたもの。

ボリビアが内陸国となる要因ともなった戦争を経た今、紆余曲折の末にボリビア領内への雑貨輸入と銅資源輸出にこの路線が用いられているというから面白い。実際のところ列車の運行本数は1日一往復程度でありボリビアへの物流に貢献しているかといえば非常に怪しいところではあるのだが。

事前情報からは基本的に午前にアントファガスタ方面、ボリビア国境への最寄りの都市であるカラマを通過した列車が走行し、午後にボリビアからの列車がアントファガスタへ走行するパターンが通例。しばしば例外が存在しているものの、カラマを朝に出発して荒野をひた走ればどこかで列車を捕捉出来るはず。

…と考えていたのだけれども初日が通常の運行パターンから外れた日であるらしく、待てども待てども列車が来ないままに時間だけが過ぎていく。レールの踏面をよくよく観察してみると何だか数時間内に列車が通過したんじゃなかろうかと思わせる錆の削れ方をしている。何かがおかしいと察し、奥地へ進撃する。

ベースキャンプとするカラマの街からは200km。高度は4000mを超え、空の色はいよいよ蒼くなる。そこはいよいよボリビア国境の街オヤグエ。案の定、列車は既に国境のこの街へ到着していた。そしてボリビア側を見ると2灯のハイマウントライトが見える。

奴が来ている。チリ側の列車を追いかけながらくることは出来なかったとはいえ、本来のお目当てはこいつ。間に合ってよかった…

この見覚えしかない箱型機関車。この地球の裏側のその最果てのような地で感じる実家のような安心感。三菱重工がチリ・ペルー・ボリビアへ製作した高所地向け機関車の集大成ともいえるDE95/DE100型である。EF81と見せかけて車両上にパンタグラフがない点がなんともシュール。近年シュタッドラー製新型DLの導入によりその去就が注目される日本の機関車がここにはいる。

さて、オヤグエでの機関車交換をあまりのんびりも眺めていられない。

ボリビア側から持ち込まれた編成はチリ側の機関車に付け替えられ気がついた頃には操車場を発車しようとしている。これを急ぎ追撃して撮らなければならない。塩原を見下ろす丘の上から、列車を待ち構える。別の惑星に降り立ったかのような景色の中でかれこれ丸一日活動しているわけではあるが見飽きることはない。

道路から外れ、光線の当たり具合が良さげなS字カーブ目指して荒地の中を車を走らせた。

背景には雪を被った山。特段有名な山でもなんでもないはずだがやけに風格が漂う。この一体にはそんな山がいくらでもある。ここが火山活動活発な新期造山帯であることをこれでもかと想起させる景観。

…ところで南米の5月って日本で言うところの11月頃に相当するはず。それも今は5月の頭。晩秋と呼ぶには程遠い。それにしては山への着雪がやけに色濃い気がする。こんなもの?なんだか季節感が狂ってくる。

そして気がつくともう日が暮れようとしている。道路状況の決して良くはないこの地で車を無事に走らせる自信はない。宿の環境が決して良くはないのは明らかだがここは敢えてカラマへは戻らず、オヤグエへ投宿することにする。

その道すがら、線路のその向こうを見ると何かが接近している。何かとは言うが可能性はただ一つ。何と先ほどの鉱石列車に続行して有蓋貨車編成が走行してきている。折しも塩原にはスポットライトのようにごく一部に鋭い斜光線が照り付けている。

最後の最後に何たるラッキーショット。カラマに戻っていては得られなかったカットを手に入れ、オヤグエの町へ戻っていった。

この時、標高4000mでの活動に身体の順応が追いつかず、高山病の気配を催していた。

飛び入りで宿に入ったはいいものの、イマイチ意識ははっきりせず頭痛がする。全く言葉が通じないながらも何とか手に入れた食事はパッサパサのパンと水気のないリャマ肉?のサンドイッチ。そして頼りないシャワー。温水は辛うじて出たんだっけ?頭痛が酷くその辺りの記憶もやや曖昧。外に出ればそれはもう美しい夜空だったんだろうが…そんな気力もなくバタンキューで撮影初日を終えた。





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