米加激走3千キロ-2-

翌日も朝からフリーウェイを爆走し、遂には国境を越えてバンクーバーの脇を掠めてカナダの山へ分け入っていく。そこはロッキーから流れる川に抉られた深く独特な景観をもつ渓谷地帯。折角なので列車を撮り…たいのだが、そこにあるのは山火事に端を発する視程50mも怪しい濃い煙霧。

もの撮るってレベルじゃねえぞ

もちろんのことながら為す術なく一日を終えた。だがしかし。ジャスパーまではまだ450kmを残している。宿に入っている暇などない。更に夜を徹した爆走を続け、ようやくジャスパーに到着したのはもうすぐ夜も開けようかという頃だった。

そして狙うは自分たちと同じペースで走行してきているはずのVIAカナディアン号。もっともこの列車の現行ダイヤであるジャスパー国立公園内午前通過のスジでは撮る場所は皆無といってもいい。国立公園手前のムース湖ならなんとか編成写真なら撮れるはず、ということで日の出直後の線路側で待ち構えたが何と想定に反して通過が早いらしく空振り。

逃したものは仕方ないと撮影地を求めてジャスパーを通り抜けアルバータの平原に撮れる場所を探すも………力及ばす記念撮影レベルに終わる。撮れるダイヤへの回帰を切望する。

…気を取り直して、ジャスパー国立公園付近の好撮影地を駆け回る。本来ならばこの美しき山々の中で過ごす優雅な休日の日々を過ごすはずであったのだが…

US領内で一定の戦果を得たとはいえ何とももどかしい。

草原に横たわりカップ麺を食らい、昼寝をし、やがてくる列車を撮影する。

素晴らしき1日。

よく見ると足元に熊の糞があったのはご愛敬。

1日の終わりにその糞の落とし主であろう者を見かけたのはオフレコ。

夕方になり、今回最大の目当てとする撮影地を目指す。

橋のない川を渡り、野生の臭いのぷんぷんする未舗装を征く。やがて道は崖に張り付き景観の開けたポイントに出る。その眼下にはカナダの誇る美しき国立自然公園を突き抜ける一筋の鉄路。世界広しといえどこれほどの優れた鉄道風景はそう存在しない。

ほぼ北東へ走る線路のため、順光時間が午後の遅い時間に限られる点がネックではあるが。

なんとか今遠征の最大の目標を抑えたのは良かった。がしかし。ここからバンクーバーまでは800km。翌日午後には帰国便が控える。……つまり、ホテルでのんびりしている余裕など存在していないことは自明。ここから再び夜を徹した必死のキャノンボールが始まる。こんな夜がほぼ毎晩なこの遠征、今にも泣きそうな気持ちと身体にムチ打ち必死にペダルを踏む。クソでかい鹿が目の前に現れないことを祈りながら。翌朝、とりあえず400kmを消化した地点で仮眠し朝を待った。残り400km程度ならば日中走行でもどうにかなるし寄り道したいところもある。

バンクーバーまでの道中、鉄道は特異な景観の中を走行する。フレーザーキャニオンと呼ばれるこの氷河の浸食で形成された深い渓谷の中を進む。その中、特に谷間の狭いブラックキャニオンと呼ばれる一帯は緩い地質故に度重なる地滑りを繰り返す。この地滑りへの対処のため、スノーシェッド(サンドシェッド?)を砂礫の流路下に配置し、これでも線路が土砂に埋められる場合に備えてラッセル車両も用意されているという。高速道路は南東の山岳地帯を短絡するこの現代において今の土木技術であれば高速道路に沿ったルートを長大トンネルで突破しているだろうところをこのように自然災害に対し真っ向から対決していかざるを得なかった鉄道敷設当時の技術者の苦悶やいかばかりか。

更に南下を続けるとやがて山火事による霞みは幾らか改善されてきた。それでも一体の香りは決して爽やかではなく、アジアでおなじみの煙ったい匂いと黄砂とPM2.5の入り混じる小汚い大気。結局この夏のブリティッシュコロンビア州は終始このような空気に覆われるという悲惨なシーズンとなったようだが、通常のカナダはこんなものではない美しさで我々を迎え入れてくれたはず。リベンジを果たせる日はいつになるのか。他所との優先度を勘案しながら模索が続いている。

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